
九
元は白金藍という青年。
白金家は代々神魔管理機構記録局の局長の座についており、彼もまたそのようになるよう異常なまでの教育をされてきた。
彼は優秀だった。すぐに現場にも行くようになり、重要な仕事も幼くして任されるようになった。
しかし白金家の他の者達とは違い、彼は精神的には脆かった。
もっと正確に言えば…彼は優し過ぎた。
昨日談笑しお茶をしていた相手の死亡報告書をその翌日に書くような日々、どのような悍ましい内容でも記録しなければならない職務をこなす内、元から家の教育により疲弊していた彼は更に疲弊していった。
もっとも、周りの大人達は誰一人として気づいていなかったようだが。
ある日、疲弊が積み重なり重大なミスを犯した。
結果、管理局職員■■人、その他一般人■人が犠牲になった。
彼もまた汚染被害を受けたものの、唯一一命を取り留めた。
………取り留めてしまった。
精神はとうに限界だったようで、その日からしばらく経つと彼は場面場面によって人が変わったように従順になったり、攻撃的になったり、幼児のようになるようになった。
周囲もその様子を見てある病気を疑ったが、一通りの後始末が終わり検査を実施した時には至って不気味なほどに正常になっていた。
汚染も完全に除去されていた為、汚染により一時的に取り乱していただけであると結論付けられた。
その日から藍は居ない。
今はただ、九がいる。
DID、解離性同一性障害。
俗に言う多重人格であり、九は自己防衛の為に生み出された人格だった。
主人格であった藍は段々と出現頻度を減らしていき、いつの間にか主人格は九になっていた。
その他の人格すらも段々と消えていき、今はもう九しかいない。
九は藍を愛していた。
それ故に、藍を殺した周りが、白金家が、神魔管理機構が許せなかった。
九にも局長の才能があった。
だから九は復讐をする事にした。
この機構を、家系を、壊す。
自分が一番上になって、最大最悪の全てをバラす。
一番上になったその瞬間、全てをバラす為ただそれだけの時の為、絶望的な悪行を重ねよう。
お前らのせいでこれが生まれたのだと、今までの歴史伝統全てが間違いであると分からせよう。
小説家になったのは自分の今の能力で一番注目を集められそうだったから。
藍の趣味も引き継いだ。彼以上にハマってしまった気もするが…
ある日あの事故について責められて、カっとなって殺してしまった。
折角なので後に証拠になる物だけ保管して証拠隠滅をした。上手くいった。
殺人は世間に注目される悪事として丁度いい。
いつか自分が機構のトップになり、家を継いだその時までバレる訳にはいかないが…その時まで繰り返そう。
そもそも藍の事を悪く言うやつらなど皆死ぬべきなのだ。
一石二鳥というやつだった。
無理矢理習わされた剣道も役に立った。
きっと僕は反省しない。藍は戻ってこない。